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2014-10-07 09:03:00

文学の中で登場する「うどん」を探してみました。

 

 

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 私は今朝から弐拾銭を握(にぎ)ったまま呆んやり庭に立っていたのだ。松の梢では、初めて蝉(せみ)がしんしんと鳴き出したし、何もかもが眼に痛いような緑だ。

 

 

 

 唾を呑み込もうとすると、舌の上が妙に熱っぽく荒れている。何か食べたい。――赤飯に支那蕎麦、大福餅(だいふくもち)うどん、そんな拾銭で食べられそうなものを楽しみに空想して、私は二枚の拾銭白銅をチリンと耳もとで鳴らしてみた。

 

 

 

 しんしんと蝉は鳴いている。

 

 

 

          林 芙美子 「清貧の書」1931年 より